2011年6月29日 (水)

六月の緑の木々に悪魔がささやく

六月の緑の木々に悪魔がささやく/  深杉 爽子

 

街中をひとりで車を走らせているとき、偶然見かけた彼は、奥様連れであった。六月の鮮やかな緑の木々の下を妻の手を引いて。たしか、5歳くらい歳上の奥様であったと記憶している。ご病気なのであろう。もともと痩せておられた奥様であったが、人相が変わるほどの痩せぶりで、歩くのもままならないご様子であった。杖をついておられ、その姿はとうに70の坂を越した老婆のものであった。

彼の方は、というと相変わらずのカジュアルな装いで、真っ赤なポロシャツ、オフホワイトのチノパン、足元にはスニーカーという出で立ちが若々しさを強調していて、まるで親子のように見えた。昔と変わらぬ鼻髭にわずかに白いものが混じっていた。

若い頃、そう、この男と出会ったころ。わたしはハタチで、彼は7つ違いの27歳。

なんてやさしい目をした人なのだろう。わたしは、初めて会ったばかりだというのに、彼の目ばかりに気を取られていた。そんなわたしを彼はからかうように見返して、

「きみはずいぶんぶしつけに、まっすぐに人を見るんだね」と笑った。

それから、わたしは幾度となく顔をあわせる機会を得た。

わたしにとって、彼はいつも気になる存在だった。きっと彼もわたしのことを好ましく思っていたはずだ。その証拠に、あるとき、彼からお礼と称して花束がとどき、何度か食事の誘いを受けた。でも、そのときすでに彼には身ごもったうつくしい妻があり、わたしには交際を始めたばかりの恋人がいた。彼は、わたしの恋人の学生時代の先輩として、わたしの前に現れたのだった。

いま、なぜか無性に昔のオトコが気になる。

若さを急速に失いつつあるなかで、いまならまだ、ちょっとだけ、誰かとときめくことがゆるされるのではないかと思うのだ。最後のチャンスだと思うと、無性に彼らがなつかしい。あのとき、もしも食事の誘いを受けていたなら、わたしは彼に抱かれたかもしれない。若々しい身体を、感情に任せて与えていただろう。たとえ彼に賢くてうつくしい妻がいたとしても。わたしに誠実でやさしい恋人がいたとしても。

手も握らず、キスもせず、ただお互いの顔に視線を当てながら、それだけで別れた。

わたしは恋人と結婚し、それきり彼に会う機会は訪れなかった。転勤族だった彼は、妻と幼い子供を伴ってこの街を去った。あれから30年近い月日が流れた。

ふと悪魔がささやく。彼に電話してみる?食事に誘ってみる?

あの時とは反対に、わたしから彼を誘ってみる?

でもね、彼はきっとこう答えるだろう。

ぼくには妻がいるから、きみのそばにずっといてあげられないんだよ。

それでもいいの?と。

あのとき、食事に誘っておきながら、彼が口にしたことばのように。

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2010年9月 6日 (月)

スイカものがたり Ⅱ

30を過ぎたシュン兄ちゃんは、実はスイカが苦手。
幼いころは大好きだったスイカがなぜ食べられなくなってしまったのか。これは、それを明らかにするものがたり。

・・・・・・・・・・

シュン兄ちゃんが小学生になって初めての夏休み。

シュンちゃん家は、お父さんもお母さんも働いていたので、日ごろはおじいちゃんとおばあちゃんと過ごしていた。
特に長い長い夏休みの間は、朝の宿題を終えると大好きなおじいちゃんに連れられて「おじいちゃんの畑」で遊ぶのが楽しみだった。

そんな夏のある日、農作業の合間に咽の渇きをうるおそうとおじいちゃんが畑に植えていたスイカを食べさせてくれることになった。
スイカをもいで、さあ、スイカを割ろうというときに、目の前をにょろにょろと這っていく一匹のヘビ。
まだ若いおじいちゃんである。たくましく勇ましいおじいちゃんは、スイカを割ろうとしていた鎌を手にすると、グサっと一振り、ヘビを見事に退治してくれた。

それから何事もなかったように、その鎌でスイカを割ると、おじいちゃんはいつものやさしい笑顔で、
「ほら、シュン、旨いぞ、食べてみろ」とシュンちゃんにスイカを勧めた。
おじいちゃんが誰より大好きなシュンちゃんである。
「ヘビを退治した鎌で切ったスイカ」を「食べたくない」とは言いだせず、心の中で泣くような思いでスイカを口にした。
それ以来、シュンちゃんはあんなに大好きだったスイカが嫌いになった。

・・・・・・・・・

スイカつながりでふと思い出した、わたしにとっては遠い遠いセピア色に近いエピソードで、笑っちゃいけないけど、聞くたびに大笑いしてしまうハナシだが、当の本人にとってはいまなお、思い出すたび「背筋のぞんぞんしてくる」強烈なおぞましさを孕むものであるらしい。そんなスイカものがたりは、はい、これにておしまい。笑

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スイカものがたり

これは

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そう君が、春休みに福岡のじーじの家へ遊びに来たとき、やおやのおっちゃんからいただいた季節はずれの(たぶん高価であったはずの)スイカを食べた後、そのスイカの種を砂場の隅に蒔いたもので、

たぶん、芽が出ることはないだろうという大方の予想を裏切って芽が出たものを苗に仕立て、じーじがひいじいの畑に植えて育てたもので、

ひいじいの畑の肥えた土のおかげでぐんぐん伸びて、でも、まさか実がなることはないだろうというばーばの声に反して実ったもので、

普通ならカラスに啄ばまれるところだが、ばーばが手をこまねき、茂りに茂った雑草のおかげで無傷のまま、見事な大きさに育ち、見るからに旨そうだったけれど、切ってみたら、

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こーんなに真っ白で、期待はずれもいいところ、じーじとばーばをがっかりさせたスイカのものがたりである。

おしまい。

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2009年8月22日 (土)

ちいさいへびのはなし

ちいさいへびのはなし/おかのさわ作

ちいさいへびがいたって。
ちいちゃいけれどくいしんぼう。

りんごをぱくっ。

バナナだってぱくっ、
ぶどうだってぱくっ、

パイナップルもぱくってたべて
でっかいソフトクリームもぱくってたべて
おうちもまるごと ぱくばく ごっくん。

あー、おいしかった。

へびくん、
こんなにおおきくなっちゃったって。

おまけ。
うんち、てんこもりでました。
げふっ。

おしまい。

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2008年8月28日 (木)

しゅんちゃん、まだかな。

そうくんはしゅんちゃんがだいすき。

しゅんちゃんは整備士。さいきんしごとがとってもいそがしいので、おうちにかえってくるのがとってもおそいのです。

ばんごはんをたべようとして、そうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。
ふりかけごはんをたべながら、そうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。
おさかなをひとくちたべて、またそうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。
おにくをのこらずたいらげて、またそうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。
おやさいをおさらにのこしながら、またまたそうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。

ばんごはんをたべおえて、ママとおふろにはいりながら、そうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。
かたまでかたまでとおふろにつかりながら、またそうくんがいいました。
しゅんちゃん、まだかな。

やがて、ただいまー。と、しごとをおえたしゅんちゃんが、よごれたさぎょうぎにつかれたかおをのせてかえってきました。

あー、しゅんちゃんだ~とすっぽんぽんのはだかのままでそうくんがはしってきました。しゅんちゃんが、そうくんのからだをうけとめながらにっこりわらいました。

そんなふたりをみて、おうちのそとでは、おつきさまがほっこりわらっていました。

しゅんちゃん、まだかな。おしまい。です。

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